2025年4月、米国Brown大学のSara Machado氏らがNEJM(New England Journal of Medicine)に発表した衝撃の研究結果が、世界に波紋を広げています。なんと、米国の富裕層でさえ、欧州の貧困層と同じレベルの死亡率であることが明らかになったのです【https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMsa2408259】。
これは単なる統計の話ではありません。医療制度の不平等、生活習慣、社会の仕組み――そうした「見えない格差」が、人の寿命を左右する現実を突きつけるものです。
本記事では、医師である筆者が、異世界の家族キャラクターたちとともに、この「健康と富の関係性」についてやさしく、わかりやすく解説していきます。
あなたの“健康”は、本当に守られていると言えますか?
「家族の未来」と「命の格差」のリアルを、今こそ一緒に見つめ直しましょう。
異世界「ヘルスディバイド王国」の家族紹介
パパ(46歳):内科・消化器・肝臓内科専門医。CT検査の適正使用に心を砕く日々。脂肪肝持ちで毎朝ランニング&テニスが習慣。スマホでFXチャートもよく見てる。
ママ(37歳):元理学療法士。感情豊かで表情で語るタイプ。ウォーキングとテニスが趣味。
ミサ(9歳):冷静な小4女子。ピアノとスイーツが大好き。パパに鋭いツッコミを入れることもしばしば。
いっしー(6歳):小学1年生の運動大好き男子。ボールと一緒に寝るタイプ。
ゆう(0歳):鳴き声と為替急落のタイミングがシンクロする謎の赤ちゃん。天才肌。
パンダ(猫):ツンデレ猫。パパと相性は悪いが、ドル円が上がると甘えることも。
富の格差=寿命の格差?最新研究の驚きの結論
研究の背景と概要
米国は過去60年にわたり富の不平等が拡大し、それに伴って健康状態や平均寿命にも深刻な格差が生まれています。Machado氏らは、米国と欧州の50~85歳の人々を対象に長期的な健康と死亡率の調査を実施しました。
- 米国:Health and Retirement Study(HRS)
- 欧州:Survey of Health, Ageing, and Retirement in Europe(SHARE)
追跡期間:2010~2021年(中央値10年) 対象者:7万3838人(米国1万9534人、欧州5万4304人)
【出典:Machado S, et al. NEJM. 2025. DOI: 10.1056/NEJMsa2408259】
死亡率の衝撃的な実態
調査の結果、富裕層であっても米国人の死亡率は欧州より高く、
- 米国の死亡率:1000人・年あたり6.5人(95%CI:6.3–6.7)
- 北欧・西欧の死亡率:1000人・年あたり2.9人(95%CI:2.8–3.0)
調査の結果、たとえ富裕層であっても、米国に住んでいるというだけで欧州に比べて死亡率が高いという衝撃的な事実が明らかになりました。具体的には、**米国の死亡率は1000人・年あたり6.5人(95%信頼区間:6.3〜6.7)**と報告されており、**北欧・西欧の死亡率(1000人・年あたり2.9人、95%CI:2.8〜3.0)**と比べて、倍以上に上ります。
さらに注目すべきは、米国の富裕層の生存率が、欧州の貧困層とほぼ同等であった点です。これはつまり、「お金を持っているかどうか」よりも「どこの国に住んでいるか」のほうが、寿命に大きく影響するという現実を示しています。
ミサ(9歳)が驚いた表情で言います。
ミサ:「えっ、じゃあ、お金持ちでも“アメリカにいる”ってだけで寿命が短くなるの!?」
するとパパが、資料を見ながら静かにうなずきます。
パパ:「そうなんだ。国の医療制度や社会構造の違いが、“健康格差”として命に直結しているってわけだね」
健康や寿命は、個人の努力だけではどうにもならない社会的な要素の影響を強く受ける──この研究はそれを明確に示しています。
なぜ米国は富裕層でも寿命が短いのか?
医療制度と社会保障の差
米国では、一見すると「お金があれば医療は万全」と思われがちですが、保険制度の仕組みそのものが、健康格差を広げる原因になっています。米国の医療は主に民間保険に依存しており、保険の種類や補償範囲によって受けられる医療の質が大きく異なるのが実情です。高所得者でも、自営業やフリーランスなどで十分な保険に加入していなければ、慢性疾患の管理や予防医療に支障をきたすことがあります。
これに対して、欧州の多くの国では公的医療保険が整備されており、所得にかかわらず誰もが定期的な健康診断や慢性疾患の管理を受けられる体制が整っています。例えばスウェーデンやドイツでは、国民全員が加入する社会保険制度があり、医療費の自己負担も比較的低く抑えられています。
日本も国民皆保険制度のもと、すべての国民が健康保険に加入する義務があり、医療機関へのアクセスは非常に高いとされています。しかし、自己負担割合や診療報酬制度の制約により、医療の質や持続可能性には課題も残されています。
ママがつぶやきます。
ママ:「公的保険があって、みんな定期的に診てもらえる仕組みは欧州のほうが整っているのよね」
ミサ:「日本は?パパはちゃんと診てもらってるの?」
パパ:「パパは医者だけど、ちゃんと健康診断受けてるよ。自分で言うのもなんだけど(笑)」
医療制度の比較表
地域 | 主な保険制度 | 医療アクセスの特徴 | 健康格差への影響 |
---|---|---|---|
米国 | 民間保険中心(Medicare/Medicaid あり) | 保険未加入層も多く、診療内容に差が出やすい | 高所得者でも医療格差の影響を受ける |
欧州 | 公的保険中心(国民皆保険) | 定期健診・慢性疾患管理が標準化 | 健康格差は相対的に小さい |
日本 | 国民皆保険制度 | 医療機関へのアクセスは高いが制度維持に課題あり | 高齢化により将来的な格差拡大の懸念 |
このように、医療制度そのものが国民の健康を左右する“土台”となっており、個人の努力だけでは埋められない構造的な差が存在しています。
生活習慣と文化的要因
米国における健康状態の悪化には、ファストフード中心の食生活、運動不足、そして慢性的なストレス社会といった生活習慣の要因も大きく関係しています。特に米国では、超加工食品の摂取率が非常に高く、1日のカロリー摂取の半分以上が加工食品からという報告もあります。また、車社会であるため、日常的な運動量が少なくなる傾向も見られます。加えて、長時間労働や医療費への不安が、メンタルヘルスの悪化やストレスの慢性化に拍車をかけています。
一方、欧州では国や地域によって差はあるものの、地中海食に代表されるバランスの取れた食生活や、徒歩や自転車を利用するライフスタイルが比較的定着しており、健康に対する意識も高めに保たれています。たとえば、北欧諸国では職場におけるワークライフバランスの意識が高く、ストレス軽減やメンタルケアにも力が入れられているのが特徴です。
そして日本でも近年、生活習慣の欧米化が進みつつあります。特に都市部では、ファストフードやコンビニ食品の依存度が高まり、運動不足や座りがちな生活が一般化しています。また、過労や睡眠不足、育児・介護ストレスなどが心身に与える影響も無視できません。しかしその一方で、定期的な健康診断制度の整備や、健康志向の高まりにより、運動や食事改善への取り組みも根付き始めているのが現状です。
そんな話をしていると、いっしーが元気にボールを抱えながら一言。
いっしー:「パパ、ランニングしててよかったね!」
パパが微笑みながら応えます。
パパ:「うん。おかげで脂肪肝もちょっとずつ良くなってきたぞ。医者でも、動かないとだめだからね」
生活習慣と健康意識の国際比較
地域 | 食生活の特徴 | 運動習慣 | ストレス・働き方の傾向 |
---|---|---|---|
米国 | 高脂肪・高糖質の超加工食品が多い | 車移動中心で運動量少なめ | 長時間労働・医療費の不安がストレスに直結 |
欧州 | 地中海食などバランスの良い食事文化 | 徒歩や自転車移動が多く運動習慣あり | ワークライフバランス重視でメンタルケアも整備 |
日本 | 外食・加工食品も多いが健康志向も根付く | 運動不足が課題だが改善意識あり | 過労・睡眠不足・育児負担が健康に影響 |
食事・運動・ストレス管理という基本的な生活習慣の差が、国ごとの健康状態や寿命にも大きく影響していることが、こうした比較から浮き彫りになってきます。
日本への示唆〜他人事ではない健康格差
高齢化社会と経済格差
実は、日本でも所得や学歴による健康格差は年々拡大しています。特に近年は、フリーランスや非正規雇用で働く人が増加しており、安定した収入や職場の健康保険に頼ることが難しい層が広がっているのが現状です。これにより、健康診断を受ける機会が減ったり、持病の継続治療を途中でやめてしまったりするケースが少なくありません。
また、低所得層では喫煙率や肥満率が高い傾向があり、生活習慣病のリスクも上昇しやすいことが知られています。医療制度が整っている日本でも、情報格差や経済的なハードルが“見えない壁”となって、健康を守る行動を妨げているのです。
そんな現状を聞いて、ミサが鋭くツッコミます。
ミサ:「日本の話じゃん、これ!」
パパがうなずきながら応じます。
パパ:「そう。だからこそ、“自分には関係ない”と思わずに、今のうちから正しい情報を知って、できることを始めることが大切なんだよ」
知識と行動が、未来の健康を守る第一歩になります。
専門医としての提言:今できる“健康格差”対策
健康診断と生活習慣の見直し
- 定期的な健康診断を受ける
- 予防医療の意識を高める
- 運動、食生活、睡眠の質を見直す
健康格差を縮めるために、まず個人レベルでできることがあります。なかでも大切なのが、定期的な健康診断を受けることです。病気の早期発見・早期治療により、重症化を防ぐことができ、医療費の負担も抑えられます。
また、病気になってからの治療よりも、未然に防ぐ「予防医療」への意識を高めることが重要です。特定健診やがん検診なども積極的に活用しましょう。
さらに、日常生活では運動習慣の確立、バランスの取れた食事、質の高い睡眠が健康の基本です。激しい運動をする必要はなく、ウォーキングやストレッチからでも効果があります。
毎日の積み重ねが将来の健康をつくります。生活習慣を少しずつ見直すことが、“見えない健康格差”への対策となるのです。
社会制度の見直しにも注目を
もちろん個人の努力も大切ですが、**健康格差は社会構造に根ざす問題であり、個人レベルの対策だけでは限界があります。**たとえば、低所得層が医療にアクセスしづらい状況や、働き方の不安定さによって健康を守れない人が増えている現実は、社会全体で取り組むべき課題です。
そのためには、政治や制度への関心を持ち、誰もが公平に医療を受けられる環境を求めていくことが不可欠です。健康診断の機会を拡充したり、医療費の自己負担を減らす政策、教育の充実など、長期的な視点で社会の仕組みそのものを見直す必要があります。
パパが子どもたちに話します。
パパ:「政治や制度のことにも目を向けよう。健康って、“自己責任”だけで片付けられる問題じゃないんだよ」
するとゆうが突然叫びます。
ゆう:「ふぎゃあ!(それな〜!)」
笑いの中に、未来へのヒントが込められているのです。
各章まとめ
富の格差=寿命の格差?
米国では、たとえ富裕層であっても死亡率が高く、健康格差の深刻さが際立っています。最新の研究では、米国の富裕層の生存率が、欧州の貧困層と同程度であることが示されました。つまり、「どれだけお金を持っているか」よりも「どこに住んでいるか」が健康や寿命を左右するという現実が明らかになったのです。医療制度や社会保障の違いが、命の格差に直結しています。
米国と欧州の違い
→寿命を左右するのは、単に個人の生活習慣だけではありません。医療制度の整備状況、日々の生活習慣、そして社会全体の構造的な仕組みが密接に関係しています。特に米国では、民間保険中心の制度や高ストレス社会、加工食品に依存した食生活などが健康に悪影響を及ぼし、富裕層でさえ寿命が短くなる傾向があります。一方、欧州では公的保険や生活の安定が守られており、全体的な生存率が高くなっています。この差は制度の違いが命に直結することを示しています。
日本への教訓
日本でも急速に進む高齢化により、健康格差の問題はもはや見過ごせない重要な課題となっています。所得や雇用形態の違いにより、医療や予防の機会にアクセスできるかどうかが分かれ、慢性疾患の早期発見や治療の継続に差が生まれています。特にフリーランスや非正規雇用の増加により、医療を受けるタイミングを逃す人も少なくありません。今後の日本では、健康の格差を縮める取り組みがより一層求められます。。
ブログのまとめ
- 米国では、富裕層でさえも欧州の貧困層と同じくらいの死亡率にあるという衝撃的な研究結果が明らかに【NEJM. 2025】
- 健康格差は、医療制度や社会構造の違いに根ざした“見えないリスク”
- 日本も同様の課題を抱えており、予防・教育・制度整備が急務
あなた自身や大切な人の健康を守るために、正しい情報を知り、できることから始めましょう。
参考文献: Machado S, et al. “Wealth and Mortality in the United States and Europe.” New England Journal of Medicine. 2025 Apr 2. DOI: 10.1056/NEJMsa2408259
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